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「ブドウリーフロール病 / GLRaV-3」とは? ー GLRaV-3を徹底解説


タイトル


当協会が設立されてから、みなさまにはGLRaV-3(Grapevine Leafroll assosiated virus-3)の罹患率や影響について話をしてきたと思います。


当協会ではそのウイルスの蔓延を防ぐべく、原木園の設立やウイルス検査済苗(JVA認証苗)の普及を目指して活動をしています(もちろんそれ以外の目的もあります)。

JVAが目指す苗木のサプライチェーンの未来

ただこれまでの説明では、収量減少、糖蓄積や着色不良という表現で伝えておりましたが、そのメカニズムに踏み込んだことはありませんでした。


当協会の記事執筆者である私自身(奥村)も、実はよく理解しきれていなかったというのも事実です。


このような背景も踏まえて、改めて本ウイルスについて、みなさまにもっと知っていただければと思い記事にしてみました。いつもながら長文 & 難解ですが、お付き合いいただければと思います。




1.GLRaV-3(ブドウ葉巻随伴ウイルス3)とは?

GLRaV-3は日本語では、「ブドウ葉巻随伴ウイルス3」と訳されます。

「ブドウ葉巻随伴ウイルス」にはタイプ1,2,3…とさまざまな「タイプ」があります。


そして先に述べた「ブドウ葉巻随伴ウイルス3(リーフロールタイプ3)」は、リーフロール病のなかで最も経済的損失大きいウイルスとされています。


病症ももちろん理由の1つなのですが、罹患経路も影響しています。

例えば、タイプ2は接ぎ木による罹患でのみ生じると言われており、タイプ3はカイガラムシ類が媒介虫となって感染拡大すると言われています。

カイガラムシ類を圃場から撲滅することは不可能に近く、ウイルスに感染した樹を圃場に持ち込まないことが最も重要な戦略になります。


一般的に言われている「リーフロールタイプ3」の主な病症は以下になります。

・葉の白化(白品種)または赤色化(葉脈は緑で残る)。

・葉巻の症状(葉が裏に向かって巻く)

・糖蓄積の不良

・着色不良

・熟期の遅延

・収量の低下


2.なぜ病症が出るのか?

この記事の本論はここからです。ここのメカニズムを理解することなくしてリーフロールタイプ3を正しく恐れることができません。


参照したのはこの2つの論文です。

・”Transcriptomic Analyses of Grapevine Leafroll-Associated Virus 3 Infection in Leaves and Berries of  ‘Cabernet Franc’"

・”Compatible GLRaV-3 viral infections affect berry ripening decreasing sugar accumulation and anthocyanin biosynthesis in Vitis vinifera”


GLRaV-3は「①ATP生成の抑制」や「②糖輸送の阻害」「③特定の遺伝子発現の抑制」を引き起こしているとのことでした(それ以外にも影響はあるかもしれません)。


 ①ATP生成の抑制

 1.GLRaV-3はミトコンドリアの外膜に結合して複製し、ミトコンドリアの損傷とATP生成の抑制を引き起こす。

 2.ATP生成が抑制されることで、葉から樹、果実へとスクロースを輸送するときに必要なVvSUTの活性が低下する。

 3.葉に滞留したスクロースはグルコース、フルクトースに加水分解される。

 4-a.葉に滞留した過剰な糖によって負のフィードバックが生じ、糖を合成する葉緑素の「生合成抑制、分解促進」が生じる。葉緑素の減少は白化の原因となる。また葉での糖の蓄積は過剰な浸透圧の上昇につながり、葉巻症状を引き起こす。

 4-b.過剰な糖は、葉の内部の細胞壁の生合成やアントシアニンなどの二次代謝産物の生成を促進する。これが赤色化や葉の厚みの肥大化を引き起こす。


 ②糖輸送の阻害

 また上記と並列で、GLRaV-3感染はプラスモデスマータ周辺にカロース(多糖類)の沈着を引き起こす。結果として、①と同様に葉から果粒への糖輸送をさらに阻害する可能性があり、果粒サイズが小さくなり、成熟が遅れる。


 ③特定の遺伝子発現の抑制

 遺伝子発現については2つ目の論文に記載があり、以下の遺伝子発現が抑制されることで、着色不良の引き金となるとされる。

 CHS2(Chalcone Synthase 2)

役割:CHS2は、フラボノイド生合成経路の初期段階で機能する酵素をコードする。具体的には、CHS(Chalcone Synthase)は、p-クマロイルCoAとマロニルCoAを基質として、フラボノイド骨格であるナリンゲニンカルコンを合成する。

重要性:フラボノイドは、植物の色素、抗酸化作用、防御機構などに関与しており、果実の色素形成(特にアントシアニンの生成)に重要。したがって、CHS2の発現は、果実の色素形成と品質に直接影響を与える。

 UFGT(UDP-glucose 3-O-glucosyltransferase)

役割:UFGTは、アントシアニン生合成の最終段階で機能する酵素をコードする。この酵素は、フラボノイドにグルコースを付加することで、安定したアントシアニン色素を生成する。

重要性:UFGTの活性は、果実の色の強さや色素の安定性に直接影響します。


これらを通じて着色不良や糖蓄積の不良などが引き起こされ、病症としての赤色化や葉巻が発生することになります。


3.ぶどう栽培への影響の大きさは?

ここまででGLRaV-3によるブドウへの影響のメカニズムを記載してきました。

ではこれらの症状によって、果実品質にどの程度影響が出るのでしょうか。


実は1つの文献で全ての事象が示されている例は多くはありません。

裏側の機構は解明されつつあるものの、個々の論文を集めた結果、総論としてGLRaV-3による影響ってこうだよね、という形でまとめられているのが現状です。


・糖蓄積

糖蓄積と熟期の遅れについて言及した研究があります。

Montero氏らが2016年にFood Chemistryに出したジャーナルでは、葉緑素の濃度、糖濃度について言及されています。この研究ではGLRaV-3に罹患していない株、2008年以降に罹患した株、2008年以前に罹患した株の3つに分けて、2014年のニュージーランドでの生育データを取得しています。

葉緑素は、前述の通りGLRaV-3の影響を受けるポイントで、罹患株で優位に少ないという結果が出ています。結果としてNetのCO2同化量も少なく、糖蓄積が遅れるということに繋がっています。


糖蓄積が遅れる、という表現を用いているのにもポイントがあります。

本研究ではターゲットとなるBrix(約20°Brix)で収穫しているので、結果として収穫時点の糖濃度には差がありません。ただ同じ糖レベルに熟すまで1~2週間より長く時間がかかっています(Montero et al., 2016)。

収穫期の1-2週間の重さは皆さんならわかるかと思います。病気のリスクもそうですし、酸の落ちという観点でもリスクとなります。


・着色不良

着色不良についてはアメリカのピノノワール(2005年、2006年)での報告がありした。結論としては、特定圃場でアントシアニン(色素)量がGLRaV-3陽性株で優位に低いということが示されています。他方、別圃場で差が生じなかったことを踏まえると、栽培条件次第で影響度合いが変わってくるということが言えそうです。

また本研究ではTotal Phenolや同日の収穫時のBrixにも差が生じていないので、そこまで大きく代謝生成物に影響は出ていない可能性もあります。

ただ先の特定圃場でのアントシアニン量は陽性株で45.0mg/100g of berries、陰性株で74.0mg/100g of berriesと60%も差がある(Lee & Martin, 2009)ので、無視できない要素であることは間違いないでしょう。


・収量減少

イタリアのドルチェットを扱ったデータがありました。

この研究では、ブドウの糖酸の量、ワインの糖酸の量、官能評価に「影響していると言えない」という結論に至っています。一方で、1本のブドウ樹当たりの収量、房重、房数、剪定枝重量が2年間の実験でいずれも優位に差があったという結果を示しています。房数や房重の結果として収量があるので、収量の差に着目すると、1.30kg⇒1.54kg(2005年)、1.75kg⇒2.46kg(2007年)とVirus-free株の方が約20%~40%多くなっています(収量はGLRaV-3、Virus-freeの順)(Mannini et al., 2012)。


・結果としての経済インパクト

経済インパクトに関する文献を詳細まで読み解くのは私は得意ではないので、軽く紹介するに留めますが、リーフロールタイプ3による経済損失インパクトを計算したアメリカの文献があります。この文献では畑のライフサイクル(25年)を考えたときに、1エーカーあたり10,000ドル(≒25,000ドル/ha)以上の損失が出るということが述べられています。25年のライフサイクルの中で25,000ドル/haの損失が出るとすると1年に均しても1,000ドル、つまり15万円程度の損失に繋がっているということが言えます(Atallah et al.,2012)。

もう少し具体的に考えてみます。

 1.圃場内に罹患苗が出る。抜根するか検討が必要。周囲のブドウ樹の抜根も検討が必要。

 ⇒抜根しなければ感染拡大、抜根すれば収量減に繋がる。

 2.感染が拡大することで、収量、糖に影響が出始める。

   熟期にバラつきが出始める。

 ⇒ワインの品質に影響がでることで販売や価格にも影響する。

 3.罹患苗が増えることで、圃場全体の刷新の検討が必要になる。

 ⇒抜根したところに適宜定植することも可能だが、成木と幼木の管理が混ざり工数増加。

ざっと考えるだけでも工数増や収量、品質への影響は免れないということがお分かりいただけるかと思います。


上記のような採り上げ方は、偏っていると認識していますが、

GLRaV-3に罹患することによる、さまざまなリスクは十分に伝わったのではないかなと思います。

最後に日本におけるGLRaV-3の現状と考えられるリスクについて整理できればと思います。


4.日本ワインの現状と展望

GLRaV-3のブドウ栽培に対する影響を、メカニズムと数字の両面から見てきました。最後に日本のブドウ栽培の現状に照らし合わせてみようと思います。


1.糖蓄積、熟期の遅延は日本だからこそ影響が大きいのではないか。

 日本のブドウ栽培は暑くなりすぎていると言われています。個人的にこの暑さには3つほどの側面があると考えています。

1.光合成能が上がらない。

2.夜間の呼吸量が多い。

3.酸の分解が早い。 

 このような背景から日本のブドウは糖度が上がりにくく、酸が落ちやすい傾向にあるかと思います。また日照時間の短さ、降雨量の問題もあり、それも日本のブドウの成熟のネガティブな影響を与えます。

 それに加えてGLRaV-3の影響が出ると、更に糖蓄積が遅くなるので、糖も上がらないが酸はなく、収穫しないと病気になる、といった状況下に追い込まれる可能性があります。

 ただでさえ厳しい環境下であるが故に、GLRaV-3は日本のブドウ栽培でより大きな影響を与えてしまうのではないかと懸念しています。


2.着色不良も日本での影響は大きいのではないか。

 こちらも1と同様です。糖蓄積がアントシアニンの蓄積に影響することはよく知られていますが、通常の栽培環境でも糖蓄積がなかなか進まない日本のブドウで、GLRaV-3によってさらに糖蓄積が上手くいかないと、より着色不良に至りやすいのではないかと考えられます。

 また前述したとおり、アントシアニンの生合成に関与するUFGTの発現が抑制されることも一因となるかと思います。

 海外の文献では限られたケースで着色不良が発生しているという報告に留まりますが、日本におけるGLRaV-3による着色不良のリスクは低くないのではないかと考えています。


3.現在の日本でのGLRaV-3の罹患率について

 GLRaV-3の伝播を抑止することをJVAが大きな目標として掲げているのは、上記のような影響があるからだけではありません。現状の日本のブドウの罹患率の高さを危惧しているという理由もあります。

 当協会の技術顧問を務めていただいている荷田先生の最新の研究では、日本のブドウ樹のGLRaV-3の罹患率は50%近くにまでなっていると述べられています(Nita et al., 2023)。

 GLRaV-3は媒介虫(カイガラムシ類)によって伝播するので、国全体の罹患率が高い状況下であればあるほど、加速度的に感染が拡大する状況にあるということです。

 特に隣接する畑が罹患していると伝播しやすいといったこともあるので、地域全体で取り組んでいくことが非常に重要になります。

 そのためには既に会員になっていただいているみなさまだけが改植するのではなく、近くの農家、ワイナリーを巻き込んで変えていくことが必要です。



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今回はGLRaV-3について取り上げました。

私自身が知りたいこと、わかっていなかったことを少しずつ調べながら記載をしており、

久々にnote記事を書いていた時代を思い出しました。


なんとなく「ウイルスはよくない、危ない、リスクだ」という感覚的な話ではなく、

実情として日本のブドウ栽培という産業全体が大きなリスクに瀕しているということをご理解いただけたなら幸いです。


またこの記事をお読みいただけたみなさまにはご理解いただいている通り、みなさまだけでは解決し得ない問題です。隣の畑が変わらなければ常にリスクは横に残ります。

可能な範囲で構いませんので、ぜひ周辺の栽培家、ワイナリーにお声がけいただけますと幸いです。


当協会のウイルス検査済の認証苗は来年から販売予定です。今はご用意できる数が少ないですが、会員増や認証苗の販売実績が糧となって事業として拡大させていくことができます。

また認証苗の販売はJVA会員に限りますので、ぜひこれを機に入会もご検討いただけますと幸いです。


長文にお付き合いいただきありがとうございました。


一般社団法人 日本ワインブドウ栽培協会

事務局長 兼 代表理事補佐

奥村 嘉之



参考文献

Atallah, S. S., Gómez, M. I., Fuchs, M. F., & Martinson, T. E. (2012). Economic impact of grapevine leafroll disease on Vitis vinifera cv. Cabernet franc in Finger Lakes vineyards of New York. American Journal of Enology and Viticulture, 63(1), 73–79.


Lee, J., & Martin, R. R. (2009). Influence of grapevine leafroll associated viruses (GLRaV-2 and -3) on the fruit composition of Oregon Vitis vinifera L. cv. Pinot noir: Phenolics. Food Chemistry, 112(4), 889–896.


Mannini, F., Mollo, A., & Credi, R. (2012). Field performance and wine quality modification in a clone of Vitis vinifera cv. dolcetto after GLRaV-3 elimination. American Journal of Enology and Viticulture, 63(1), 144–147.


Montero, R., Mundy, D., Albright, A., Grose, C., Trought, M. C. T., Cohen, D., … Bota, J. (2016). Effects of Grapevine Leafroll associated Virus 3 (GLRaV-3) and duration of infection on fruit composition and wine chemical profile of Vitis vinifera L. cv. Sauvignon blanc. Food Chemistry, 197, 1177–1183.


Nita, M., Jones, T., McHenry, D., Bush, E., Oliver, C., Kawaguchi, A., … Katori, M. (2023). A NitroPure Nitrocellulose Membrane-Based Grapevine Virus Sampling Kit: Development and Deployment to Survey Japanese Vineyards and Nurseries. Viruses, 15(10).


Song, Y., Hanner, R. H., & Meng, B. (2022). Transcriptomic Analyses of Grapevine Leafroll-Associated Virus 3 Infection in Leaves and Berries of ‘Cabernet Franc.’ Viruses, 14(8).


Vega, A., Gutiérrez, R. A., Peña-Neira, A., Cramer, G. R., & Arce-Johnson, P. (2011). Compatible GLRaV-3 viral infections affect berry ripening decreasing sugar accumulation and anthocyanin biosynthesis in Vitis vinifera. Plant Molecular Biology, 77(3), 261–274.



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